2012年7月12日木曜日

原油、60ドルは「最低ライン」 OPEC、維持に懸命

「原油価格の大幅な下落は新規油田開発への投資を減速させ、将来的な安定供給に懸念を引き起こす」。石油連盟の天坊昭彦会長が10月24日に出したコメントが、市場で話題を呼んだ。ちょうど、ニューヨーク原油先物相場が1バレル70ドルを割り込んだころだった。

新規に油田を開発する場合、鉱区権益取得費、リグ(掘削装置)、生産機材、人件費などコストは1バレル60ドル程度かかるといわれている。これがオイルサンド(原油成分を含む砂岩)、オイルシェール(原油成分を含む岩石)になると80ドル程度にも膨らむという。ニューヨーク原油先物相場が60―80ドルの水準にないと新規開発の採算が合わなくなるという計算だ。

豊富な埋蔵量を誇る石油輸出国機構(OPEC)は、この採算ラインの下値である60ドルを特に重視する。埋蔵量世界一のサウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相はかつて、「60―70ドルがこれ以上は下がらない最低ライン」と言ってはばからなかった。つまり、OPECにとって60ドルが下値の限界であり、60ドル割れは緊急事態なのだ。

ところが、ニューヨーク原油先物相場は底値がまったく見えない状況。11日には終値で60ドルを下回り、1年8カ月ぶりの安値に落ち込んだ。

OPECは60ドルライン維持に懸命だ。11月から日量150万バレルの減産を実施。サウジアラビアは11月積みから欧米向け供給を10%以上削減、12月積みからはアジア向けも5%前後減らす。減産効果を市場に早く浸透させたいとの思いからだ。

それでも60ドルを割るようなら、OPECが12月の総会で100万バレルの大規模追加減産に踏み切る可能性が高い。60ドル割れはOPECにとってそれほど深刻なのだ。

2012年7月11日水曜日

「作られた米価」行き着く先は

2008年産の新米価格が底堅く推移している。好天で7年ぶりの豊作水準となる一方で、生産コスト上昇を理由にした全国農業協同組合連合会(全農)の値上げが浸透。当初予想されたような値下がりは回避している。

「ほんの少しの価格引き上げが日本の稲作・水田を守ることにつながることをご理解いただきたく」。全農は今夏、肥料や燃料などの価格上昇に理解を求めて卸業者などを回った。生産者への仮渡し金を引き上げたうえ、卸向けの価格は60キロ1000円前後引き上げた。代表的な銘柄米の新潟産コシヒカリの場合、前年より1200円高い60キロ1万7000円となった。量販店店頭でも新潟コシは5キロ2400―2500円台が中心で、乱売で急落した昨年のような1980円といった安値はみられない。

今年産の米価は下落が予想されていた。作付面積を前年より10万ヘクタール減らす目標に対し、実際の削減は約4万5000ヘクタールにとどまった。また作況指数は10月中旬時点で102の豊作。政府は需給対策として10万トン前後の備蓄米買い入れを決めた。34万トンを買い入れた昨年産のような値上がりを見越して、生産者には売り控えの動きもみられる。

さらに全農は公設のコメ価格センターへの上場を見送り続け、今年産の主食用米の指標価格が見えない状態だ。「顔の見える取引」を重視するとしているが、業界では「豊作基調で安値がつくのを避けるため」との見方が根強い。大手コメ卸会社の幹部は「現在の米価は作られた価格」と苦々しげに語る。

ただ景気の先行き不安が強まるなか、消費者の節約志向は強まっている。量販店は店頭で5キロ2000円以下にできる低価格米の調達を増やし、銘柄米の売れ行きは「新米の手当てが一巡した10月後半からペースダウンした」(卸会社)。JA全農にいがたは卸会社向けの販売基準価格を引き下げることを決めた。

「コメ回帰」がいつまで続くかも微妙だ。総務省の家計調査による2人以上世帯のコメ購入数量は7月から3カ月続けて前年実績を下回っている。今年前半のコメ消費増はパンなど小麦製品の値上げという「敵失」によるもの。不透明な価格形成が続けば消費者や需要家の不信を招き、消費減というしっぺ返しを食う可能性は否定できない。

2012年7月10日火曜日

技術者派遣、堅調維持も独歩高

人材派遣や人材紹介の市場で家電製品などの設計・開発を行う技術者の求人が堅調を維持している。景気悪化を背景に幅広い分野で採用抑制がじわじわと広がるなかで、唯一気を吐いている形だ。派遣料金をみても独歩高の様相だ。

技術者派遣最大手のメイテックによると、同社の派遣技術者の稼働率(実際に派遣先で就業している人の割合)は8月現在、95.9%(関連2社分含む)と前月比0.8ポイント上昇。上昇は4カ月連続で、ほぼフル稼働状況が続いている。

景気悪化の影響で製造業の間では生産調整に伴ってライン工などは削減される傾向となっている。だが、「将来の商品戦略のカギとなる設計開発部門は手厚く人材配置するところが大半」(メイテック)という。

スタッフサービス(東京・千代田)では派遣スタッフとなる技術者の採用拡大を目指して10月1日から専用の採用サイトを大幅刷新。技術分野や勤務地などで従来より検索しやすくした。同社では約4000件の求人案件が寄せられているが、「人材確保が追いつかず2―3割程度しか対応できていない」(スタッフサービス)という。

企業へ請求する派遣料金も設計開発技術者の場合、首都圏で1時間当たり3000―5000円程度と1年前と比べて3―5%程度上昇。一般事務職の時給が2100―2500円程度で伸び悩んでいるのに対して、高水準が際立つ。

人材紹介最大手のリクルートエージェント(東京・千代田)に寄せられた8月末の中途採用求人数は全業種で前年同月末比11.7%減の8万3406人と2カ月連続で前年を下回ったが、技術者を中心とする「電気・電子・半導体・機械」向けでは2万5638人と0.9%増となった。「金融」や「建設・不動産」向けが3割強の大幅減となったのと対照的だ。

派遣や中途採用での技術者の求人が堅調なのは、学生の理系離れを背景に新卒採用が難しくなっていることがある。また、家電メーカーなどの間では少量多品種生産や新製品開発サイクルの短期化で、設計開発部門の業務が増大。薄型テレビの分野では今年に入ってソニーなどが生産を一部台湾へシフトするなど、低価格化戦略を打ち出した。だが、設計部門は国内が中心。開発は国内、製造は海外でといったケースが広がっていることも国内での技術者の需要を支えている。

不況でも売れる商品の条件は何か。安いこと。そして、消費者の物欲を刺激する何かを備えていること。その“何か”を生み出すためにも若い感性を持った技術者を多く抱えておきたい。まずはヒトから。そんなメーカーの思惑が、技術者の求人の根強さの背景に透けて見える。

2012年7月8日日曜日

バルチック指数急落、新興国向け輸送需要停滞

鉄鉱石や石炭、穀物などを運ぶばら積み船運賃の国際指標、バルチック海運指数(BDI、1985年平均=1000)が急落している。8日現在で前日比158ポイント(5.4%)下がり2764。これは2006年6月以来2年4カ月ぶりの低水準で、今年5月の高値に比べ8割弱も下がった。これまでばら積み船市況をけん引していた中国など新興国向け輸送需要が停滞していることが響いている。

米国向けのコンテナ船輸送は、昨年末からすでに失速していたが、その後も新興国向けの荷動きはばら積み船主体に堅調を持続。外航海運全体でみると、新興国向け需要の拡大が不動産不況に苦しむ米国向け失速を補う「デカップリング(非連動)」の構図が成り立っていた。ところが8月以降、新興国(中国)への鉄鉱石の荷動きに急ブレーキが掛かり、外航海運におけるデカップリング論は力を失った。

海運業界全体のムードはすでに楽観から悲観に変わっている。こう感じさせるのは、船主の建造・購入意欲が鈍化していること。世界的な需要拡大を当て込んだ建造・購入ラッシュが続いていたが、明らかに勢いがなくなってきた。

鉄鉱石などを運ぶケープ型(15万トン級)を例にとると、新造船の単価は今年8月には1隻9850万ドルの史上最高値を付けていたが、現在は約3%安い9600万ドル程度に下がった。中古船の売買価格に至っては、1億3400万ドル程度と8月に比べ14%下落。新造船、中古船とも02年後半から続いた上げ基調は完全に一服した。

ばら積み船では米国発の金融危機が下げを増幅させている面もある。運賃先物市場に入っていた投機資金が流出し、バルチック海運指数の下落を加速させた。この数年の外航海運市況の高騰局面では、明らかに投機的要素が相場を押し上げていたが、すでにこれまでの急落でこうした部分はほとんどはげ落ちたとみられる。今後の海運市況は需給をベースに適正水準を探る展開となりそうだ。