2016年1月11日月曜日

危機の裏側

自治省がまとめた『図説 地方財政(平成十年度版)』(東洋経済新報社)によると、一般会計に占める借金の返済額の割合を示す公債費負担比率が一五%を超えると黄信号、一一〇%以上が赤信号だという。

九六年度の決算では、都道府県では赤信号はゼロだったが、黄信号は十九もあり、市町村にいたっては黄信号が千六百三十一と実に全国の自治体の半数に迫り、赤信号も五百八十七もあった。事態は年々悪化しており、九六年度の決算以後も、自治体の窮迫はさらに進んでいるとみられている。

財政危機の原因は、神奈川県が典型的だが、人件費とくに退職金支払いの負担と公共事業費の支出が目立つ。前者は、戦後大量に採用された団塊の世代が退職年齢に達したこともあるが、民間委託やアーバイトの採用などをうまく活用せず大量の人員を抱え込んだという政策の失敗があった。

後者の公共事業には自治体が自ら行う単独事業と、国の直轄事業および補助事業がある。政府は、一九九〇年代に入ってバブル崩壊による不況対策として、地方債の発行を奨励しつつ単独事業の執行を各自治体に迫った。それだけでなく、国の直轄事業や補助事業も大幅にふやした。見逃してならないのは、直轄事業にも地元負担金があるということである。

政府は、自治体の借金は地方交付税で面倒をみるといった。確かにハコ物などは二〇%程度の負担で建設できた。しかし、その二〇%が曲者で、数をふやしていくうちに、つもりつもって、自治体は現在の借金地獄に落ちて行った。そうした政府も批判されるべきだ、が、右肩上がりの経済を信じて、いや、ハブルが崩壊してからも、山のような公共事業を実施した自治体も責任は免れない。

ほとんど使われることのない文化ホール、超豪華な役所ビル、建物は立派だが展示物は貧弱な博物館などハコ物の数々、そして巨額の維持管理費をみると政策の失敗であることは明白だ。今後も自治体の危鵬が深化すれば、責任問題も浮上しそうだ。開発政策は首長や議会が先頭に立って推進してきた。これまでは開発を進めることは首長や議会のお手柄であった。その結果の破綻なのである。しかし、これを機会に、まず首長や議会の責任を追及する法的な整備を急ぐべきだ。責任を問われないために、多くの自治体で公共事業の暴走が依然として止まらないからだ。