2014年9月8日月曜日

日本でも高い利益率を目標にかかげる企業か増える

事実、業績の良い日本企業を見てみると、過去二〇年間の投下資本利益率は政府の発行する債券の利率よりも低いのである。ホンダがよい例だ。ホンダが自動車の生産に乗り出そうとしていた一九六五年から一九八〇年までの一五年間、資本利益率はオートバイだけを生産していた頃の九パーセントからわずか三パーセントに激減した。三パーセントの利益率なら、同じ金で政府債券(アメリカでも日本でも)を買ったほうかはるかに利率がいい。そのことを重々承知のうえで、それでもホンダは利益率が低くリスクの高いほうを選んだのである。

日産自動車の首脳は新車種の「インフィニティ」を発表するとき、むこう五年間は利益を期待していないと語った。アメリカだったら、四七パーセントの企業が初めの三年間で利益が出始めないような事業には投資しないだろう。アメリカ企業と同じ投資規準を設定している企業は、日本ではわずか一〇パーセントしかない。

日本企業が円高にうまく対処できたのは、投下資本利益串を低く設定しているのに負うところが大きい。一層勤勉に働いてぜい肉を削る努力を重ねる一方で、松下や日立などのように利益を半分にしてでも市場競争力を維持しようという方針が効を奏したのである。松下の場合、一九七〇年代初めには売上げに占める利益の割合が一二パーセントを超えていたのに、一九八〇年代の末には七ないし八パーセントまで落ち込んでいる。日立の場合、利益の割合は一一ないしこ一パーセント台であったのが、六ないし七パーセントまで落ち込んだ。

ロンドンービジネスースクールと『エコノミスト』誌が最近おこなった、企業の純利益(収益から原材料費、賃金、生産に必要な資本コストを差し引いた残り)調査によると、売上げに対する純利益の割合が多い大企業(売上げが一〇億以上)上位三〇社のうち、二三社がアメリカ企業、四社がイギリス企業で、日本企業は一社もはいっていなかった。もう少し小規模な企業についても同様な調査をおこなったが、やはり上位三〇社のなかに日本企業は一社もはいっていなかった。

このところ日本でも高い利益率を目標にかかげる企業か増える一方で、より高い資本回転率やより大きなマーケットーシェアをめざす企業は減ってきている。しかし、「利益の極大化」といっても日本のタイムスケールは非常に長いので、アングローサクソン系企業のいう「利益の極大化」と同一に論ずることはできない。仮に市場金利を一〇パーセントとした場合、いまから一五年後の利益は一ドルに対してわずか二四セントにしかならず、それまでの一五年間にかかったコストをカバーできるとは思われない。

おもしろいことに、日本人は利益を第一に追求するアメリカ企業の姿勢こそアメリカ製品の国際競争力を低下させる最大の原因であると考えている。この見方を裏返せば、日本企業がみずからの強さの原因を何と認識しているかがわかるだろう。投資目的の株主から見れば、自分の持ち株に買い手がたくさんつけばつくほど高い値段で売却できるから好都合、ということになる。良い値がつけば売るIこれが普通だ。しかし、生産志向の経済論理では、企業運営の独立性を守るために、高値がついても株を売らない。