2014年8月11日月曜日

第三の候補者が大量得票する

さらに、従来の考え方からすれば、経済問題が選挙の主要な争点になるはずだが、二〇〇八年の選挙では、そうではない理由が今一つ考えられる。従来からの「君たち、経済問題だよ」という考え方が、実際は正しくないといえるのかもしれないのだ。一九九二年、ビルークリントンは、この有名なスローガンを掲げたにもかかわらず、全国投票でわずか四二%の得票宰でしか、勝利を収めていないのである。

アメリカとしては異例のことだが、ジョージ・ブッシュが破れたのは、第三の候補者が大量得票をしたからだ。すなわち、テキサス出身のビジネスマン、ロス・ペローが、右翼と孤立主義、それに保護貿易を標榜して、ブッシュ大統領に入るはずの票を、一九%も獲得したのだ。二〇〇八年にも同様のことが起こるかもしれない。というのは、ペロー氏と回しビジネスマンで、ニューヨーク市長のマイケルーブルームバーグが、独立系候補としてえ候補することを考慮しているからだ。彼はぺ口ー氏のような独立主義者ではないが、十一月の大統領選挙の行方を大きく左右するかもしれないのである。

しかし、ビルークリントンがジョージーブッシュに差をつけて、勝利を収めた理由は、単に景気後退だけではなかったようだ。両候袖に見られた大きな違いは、経済政策の相違よりも、クリントン氏が、ブッシュ人統領と違って、一般市民の関心事にいっそう重点を置いたことである。今まで副大統領の多くは、引退する上司に代わって立候補してきたが、今回はディックーチェイニー副大統領が立候補しないために、現職副大統領の候補者がいなかったからだ。経済衰退の原因を、直接、共和党のジョンーマケインのせいにすることはできなかった。

二〇〇六年来、アメリカ議会は、ジョージ・W・ブッシュ大統領が率いる共和党ではなく、民主党が掌握しているので、議会選挙においても、不況を単に政権担当の共和党の責に帰して、投票するのは難しいのである。それ以上に、これまでアメリカ大統領選挙が展開されてきたなかで、きわめて驚くべき事実がある。一年前、経済評論家に、大統領予備選挙、なかでも民主党の予備選挙で、主要な経済問題は何かと聞けば、きっと貿易と中国問題の二つだと、すぐさま答えたに違いない。

誰しも、一九八四年と一九八八年に、日本との貿易赤字を俎上に載せたように、中国との膨大な貿易赤字が、選挙の争点になると予想し、人気取りのため、候補者の中国叩きが激しく起こるものと思っていた。しかしそれは起こらず、中国の名さえ、ほとんど話題に上らなかったのである。中国が、これまで中国叩きを免れたのは、サブプライムローン問題が明確に示したように、アメリカの経済危機は国内で発生したものなので、外国を容易に非難することができないからと思われる。