2014年10月8日水曜日

沖縄移住ブームは定着するか

この豊かさ指標に対しては連続全国最下位となっていた埼玉県知事などからの強い批判もあり、経済企画庁は十年ほどで「豊かさ指標」発表を取りやめにした。当然のことだろう。統計には表れない、統計では表すことができない「豊かさ」や「居心地のよさ」が沖縄にはたくさんある。だからこそ、人々は沖縄に惹きつけられ、沖縄に移り住む。私はこれらのものに魅せられて沖縄に移住したわけではないが、最近の状況を見るにつけ、先見の明かあったのではないかと、秘かに自負している。

時事通信社が全国の有識者七百五人を対象に実施した「住んでみたい都道府県」調査(二〇〇五年)によると、沖縄が圧倒的に全国一位だった。二位以下は静岡、京都、東京、福岡、北海道と続く。芸能人や著名人の中には沖縄移住を考えて、住む場所を探しているという話もよく耳にする。既に、沖縄に別荘を持っている人もいる。本土では見られない亜熱帯の空や海に身を包まれて、南国ののんびりしたスローライフの中で生活すれば、心身ともにリラックスして、生き返った気分になる。沖縄に住む者として、移住希望者が多いということをうれしく思うと同時に、気になることがないでもない。

数年前から沖縄移住が一種のブームのようになっている。それは多くの日本人が、家庭、家族を犠牲にしてまで会社人間として仕事に明け暮れ、リストラに直面、あるいはリストラされないまでも、いつ解雇されるか分からない状況に置かれるようになっていることと無関係ではあるまい。自らの将来を思うと、このままでいいのかと不安になり、それだったら、いっそのこと、物価も安くて、生活もしやすそうな南国・沖縄へ行こうか、と考える人が増えてきたからだろう。二〇〇七年以降、団塊の世代がどっと定年を迎えるが、これらまだまだ若い定年団塊世代の目が沖縄に向いて、移り住む人も増えていくに違いない。

沖縄で、のんびりした南国の生活を楽しむのは素晴らしいことだ。若いときだと、自分たちがしたいことを、したいときにしていればなんの問題もない。ダイビングを楽しみ、南の離島で南十字星を眺めればいいだろう。都会で、小さなアパートに住み、長い時間、通勤電車に揺られてあくせく生活していたことを考えると、南国は楽園、夢の島だ。ところが、それなりに年をとって、家族で沖縄に移り住むとなると、事情も変わってくる。軽井沢などに別荘を持ち、夏の間だけ時間を過ごすというのと、ずっと住み続け、生活するのとではまったく違う。その土地に住むということは一時的な旅行と異なり、周辺の人たちと付き合い、コミュニティーと関わり合いながら生きていくことであり、これらを抜きにしては生きていけない。見落としがちであるが、大事なことだと思う。

沖縄でもマンションが立ち並ぶ都心部では隣近所のことは気にしなくても済む。だが、地方に住むとなると、その土地の祭りや集落の会合などにも顔を出さねばならず、都会から来た人たちにとっては煩わしく思うことも多いはずだ。沖縄戦のことは関係ない、歴史や文化も知らなくていい、沖縄には癒されるために来たのだから、という気持ちではその土地の人とうまくやっていけるかどうか。沖縄に限らず、地方に暮らすのであれば、全国どこでも同じだろう。言葉も違い、風習も異なるところでの生活に馴染めずに、沖縄から引き上げたという人の話も聞く。沖縄に魅せられて移り住む若いカップルも多いが、子どもが中学、高校進学の時期を迎えると、子どもの将来のことを考えて落ち着かなくなり、都会に戻っていくケースもまた多い。