2012年7月11日水曜日

「作られた米価」行き着く先は

2008年産の新米価格が底堅く推移している。好天で7年ぶりの豊作水準となる一方で、生産コスト上昇を理由にした全国農業協同組合連合会(全農)の値上げが浸透。当初予想されたような値下がりは回避している。

「ほんの少しの価格引き上げが日本の稲作・水田を守ることにつながることをご理解いただきたく」。全農は今夏、肥料や燃料などの価格上昇に理解を求めて卸業者などを回った。生産者への仮渡し金を引き上げたうえ、卸向けの価格は60キロ1000円前後引き上げた。代表的な銘柄米の新潟産コシヒカリの場合、前年より1200円高い60キロ1万7000円となった。量販店店頭でも新潟コシは5キロ2400―2500円台が中心で、乱売で急落した昨年のような1980円といった安値はみられない。

今年産の米価は下落が予想されていた。作付面積を前年より10万ヘクタール減らす目標に対し、実際の削減は約4万5000ヘクタールにとどまった。また作況指数は10月中旬時点で102の豊作。政府は需給対策として10万トン前後の備蓄米買い入れを決めた。34万トンを買い入れた昨年産のような値上がりを見越して、生産者には売り控えの動きもみられる。

さらに全農は公設のコメ価格センターへの上場を見送り続け、今年産の主食用米の指標価格が見えない状態だ。「顔の見える取引」を重視するとしているが、業界では「豊作基調で安値がつくのを避けるため」との見方が根強い。大手コメ卸会社の幹部は「現在の米価は作られた価格」と苦々しげに語る。

ただ景気の先行き不安が強まるなか、消費者の節約志向は強まっている。量販店は店頭で5キロ2000円以下にできる低価格米の調達を増やし、銘柄米の売れ行きは「新米の手当てが一巡した10月後半からペースダウンした」(卸会社)。JA全農にいがたは卸会社向けの販売基準価格を引き下げることを決めた。

「コメ回帰」がいつまで続くかも微妙だ。総務省の家計調査による2人以上世帯のコメ購入数量は7月から3カ月続けて前年実績を下回っている。今年前半のコメ消費増はパンなど小麦製品の値上げという「敵失」によるもの。不透明な価格形成が続けば消費者や需要家の不信を招き、消費減というしっぺ返しを食う可能性は否定できない。