2012年6月13日水曜日

金、底堅さの背景に「通貨」需要

米欧の金融危機が深刻化して以降、貴金属の金は「安全資産」として再注目されてきた。価格が変動して元本割れとなるリスクがつきまとうため実際には安全資産とは言い切れないが、株や債券、原油など他の資産よりも投資家の「買い安心感」が強いことは事実。その背景には、金の通貨としての性質がある。

ニューヨークの金先物(期近)は5日終値が1トロイオンス741.3ドル。リーマン・ブラザーズが経営破綻した9月15日時点と比べて5%安の水準にとどる。一方、原油やトウモロコシ、銅といった他の国際商品をみると、同期間の下落率は30%を超えている。

米欧の金融危機で世界経済への不安が台頭し、株や債券と違って無価値にならない金の需要が高まったことが相場を下支えしている。ただ、無価値にならないという特徴は原油など他の商品にも共通する。そのなかで金が目立って底堅いのは、通貨としての性質から、景気後退局面でも価値の目減りが少ないとみられているためだ。

金本位制が崩壊して久しい現在でも、金は各国中央銀行の預金準備の一部を構成している。最大消費国インドなど発展途上国では、金融市場にアクセスする手段を持たない人々が「タンス預金のようなもの」(商社)として購入する事例が多い。宗教や国家の色彩を帯びていないこともあって、金は「無国籍通貨」とも呼ばれている。

一方、金以外の商品は通貨として需要されることはまれで、何かに使う目的で買われるケースが圧倒的に多い。例えばプラチナは需要の半分以上が自動車排ガス触媒向けだ。こうした商品は景気変動に需要が大きく左右されるため、現在のような景気後退局面では相場水準を大きく下げやすい。

欧米の経済不安は直ちに収まる気配はなく、ドルやユーロといった主要通貨への信認が揺らぐ状況もしばらく変わりそうにない。頼れる通貨がないゆえに、無国籍通貨としての金需要は根強い状況が当面は続き、相場を下支えすることになるだろう。